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2017年度 卒業研究

抵抗可変式除細動器チェッカの改良


本学科3年次に実施する医用治療機器学実習では、自作の除細動器チェッカを用いて除細動器の出力波形を測定している。先行研究では、高電圧プローブを必要としない、小型な学内実習用チェッカの作製を行い、学内実習項目である出力エネルギー200Jで各負荷抵抗値の出力波形を取得することができた。次に実習用基礎データを取得するため、各出力エネルギー(3~360J)と各負荷抵抗値(25~200Ω)の組合せでの波形取得を試みた。しかし、出力エネルギー300J、負荷抵抗値200Ωでの波形取得時にチェッカ回路の一部から火花が散り、回路が破損してしまった。そこで本研究では、この除細動器チェッカの改良(以下、改良型チェッカ)を目的とし、全ての負荷抵抗値と出力エネルギーの組合せでの波形取得を目指した。

超音波気泡センサ点検機器開発に向けた基礎研究

本研究では、透析装置の超音波気泡センサの精度点検を簡易的に行うことを目的とし、透析装置のセンサ発振側からの超音波信号の解析、気泡体積と超音波信号出力との関係について定量的に解析した。
 本研究は、最初に気泡検知センサ(本多電子:HKS0630,以下センサ)を用い、透析装置(東レ:TR3300M)の気泡センサから発振される超音波信号を解析した。次に、専用の気泡センサホルダに送受信用センサをセットし、前述の超音波信号と同じ波形を発振器(GW INSTEK:SFG2104)から出力させ、水を循環させた血液回路のチューブ内にシリンジを用いて任意体積の気泡110個を断続的に流し、センサ受信部での電圧値変化を測定した。また、その時の透析装置気泡センサの作動状況を調査するとともに、気泡110個の写真画像から、顕微鏡下でその体積を測定した。

医用テレメータ周辺のLED照明器具による電磁環境評価


 本研究は、病院内における無線式医用テレメータの安全使用のため、LED照明器具から放射される電磁波ノイズについての基礎調査、及び病院内の電磁波環境の評価を目的とした。
 近年、病院内の照明器具には省電力・長寿命のLEDが用いられているが、LEDから発生した電磁波ノイズが他電子機器に影響を与えている例が報告されている。一方、医用テレメータがLEDから電磁干渉を受けた場合、受信障害やアラームの誤作動が発生し、セントラルモニタでの一括管理に支障を来す可能性がある。本研究では、最初にLED照明器具から放射される電磁波ノイズの基礎調査として、医用テレメータ使用環境下(送信周波数:440.7000MHz)にて、医用テレメータから100cmの位置で有線ケーブル横にてLEDを点灯させ、LEDから垂直方向2cmにダイポールアンテナ(ARA01York EMC Services)を設置し、スペクトラムアナライザ(MS2711EAnritsu)を用いて電界強度を測定した。その結果、LED点灯時は消灯時と比較して、医用テレメータの送信周波数440MHz前後において、規則的な周期で電界強度が高くなる帯域が見られた。次に、付属病院における異なる照明器具下での電磁波環境を評価するため、外科病棟(蛍光灯)と第3病棟(LED)各々7Fの各12カ所で電界強度を測定した。その結果、200~520MHzでの電界強度分布に差が生じ、特に第3病棟(LED)では、400~520MHzでの電界強度が最大20dBm高くなった。

RFA施行時の手術室内電界強度に関する基礎検討


 近年肝悪性腫瘍の治療にRFAradio-frequency ablationラジオ波焼灼法)が導入されているが、施行時に発生する放射電磁波が、モニタへ混入するなどの電磁波障害が報告されている。本研究では、手術室内でRFA施行を模擬した条件下で放射電磁波の電界強度を測定・評価することを目的とした。
 生体ファントムは、模擬腫瘍部分に4 κ-カラギーナンと0.3% NaCl、腫瘍周辺部分に2 寒天と0.3% NaClを用いて作成した。手術時の機器配置を再現した手術室(付属病院)で、RFジェネレータ(CovidienCool-tip)を用いて電界強度の測定を行った。作成した生体ファントムの模擬腫瘍部分にエコー下でニードルを穿刺し、6分間焼灼を行った。スペクトラムアナライザ(アンリツ社製:MS2711E)を用いて、ニードル先端上を0cmとして麻酔器側、超音波診断装置側の2方向に30cm間隔で電界強度を測定した。また、電界強度の測定はRFジェネレータ上、ニードルケーブル上、対極板ケーブル上でも行った。
 測定の結果、電界強度は麻酔器側より超音波診断装置側の方が高かった。0cmでの電界強度−50.74dBmに対し、ニードルケーブル上、対極板ケーブル上ではそれぞれ−35.56dBm−42.72dBm0cmより高い電界強度が測定された。機器の配置上、RFジェネレータに隣接している超音波診断装置側が、ニードルケーブル、対極板ケーブルからの放射電磁波の影響を受け、麻酔器側よりも電界強度が高くなったと考えられる。また、6分間の焼灼中、超音波診断装置の画面にノイズが入り、画像の乱れが確認された。

電気メスのメス先インピーダンス及び温度の定量的解析

本研究では、電気メス使用後のメス先インピーダンスおよび温度を測定し、熱傷事故発生の関係性を定量的に解析することを目的とした。電気メス使用時の熱傷事故は臨床応用当初からの問題点であったが、様々な対策により軽減されてきた。しかしながら、使用直後のメス先を術野の覆布上に置いてしまい、残留熱が患者に伝わることで熱傷事故を引き起こす事例が報告されている。そこで我々はメス先に注目し、工学的視点からメス先のインピーダンスと温度について基礎検討を行った。
 はじめに、実際に臨床で使用されたメス先のインピーダンスをLCRメータ(HIOKI:3532-50)で測定した。その結果、使用後のメス先でインピーダンスの上昇が確認できた。次に、電気メス(ValleylabFORCE 40)のメス先を固定し、ステージ(SIGMA KOKISGSP26-100)上に置いた試料(豚肉)を一定の速度(5mm/s20s)で移動させ、電気メスを凝固モード(40W)で出力し、試料を切開した。これらを5回繰り返した後、メス先のインピーダンス、及び放射温度センサ(KEYENCE:FT-H20)で温度を測定し、メス先の状態を定量的に解析した。
 メス先のインピーダンスを測定した結果、特定の出力回数を超えると急激に増加し、その後低下した。また温度測定の結果、使用回数の増加に伴い使用後にメス先の温度が常温に戻る時間が延長した。付着した炭化物がメス先のインピーダンスの増加や熱の放射低下に影響したと考えられた。

体外式ペースメーカ用デマンド感度測定プログラムの構築

本研究は体外式ペースメーカ(以下体外式PM)波形保存システムへのデマンド測定機能の追加を目的とした。臨床工学技士業務指針の一つに体外式PMの保守点検があるが、現状では点検に複数の機器が必要である。特に、デマンド機能の点検にはオシロスコープや発振器を含むISO14708-2で規定された測定回路が必要である。そのため、製造業者に点検を依頼する場合もある。そこで、簡便にデマンド機能を点検できる体外式PMチェッカの開発を試みた。
 先行研究にてPC上で体外式PMの波形や振幅などの基本的な情報の表示、記録が可能となった。本研究ではこのシステムを改良し、心内心電図を模擬した波形を体外式PMに入力してデマンド感度を測定可能なプログラムを構築し、その有用性を検討した。プログラムソフトはLabVIEW2013NI社製)を使用し、振幅可変な模擬心電図出力プログラムを構築した。模擬心電図はAD変換器(USB6009NI社製)から出力し、体外式DDD PM3085ST.JUDE MEDICAL 社製)へ入力した。体外式PMAAIVVIモード、デマンド感度を0.520mVの範囲で4条件設定し、各々感度の±30%の範囲で模擬心電図の振幅を変化させ体外式PMに入力した。また、5波形以上連続でセンシングした時の模擬心電図の振幅をデマンド感度振幅値とした。その結果、体外式PM設定感度の±10%以内のデマンド感度振幅値で、デマンド機能が働くことを確認できた。