2015年度 卒業研究
Raspberry Piを用いた視覚的な除細動器簡易チェッカの作成
臨床工学技士にとって、医療機器の点検は患者安全の観点から重要な業務であえう。また臨床工学技士養成カリキュラムにおいても、医療機器の実習を通じ原理・方法を学ぶことで、医療機器やその点検について理解を深めている。現在、本学の治療機器学実習で使用している除細動器チェッカは、サイズ・重量ともに非常に大きい。また、別途問題点としてオシロスコープと高電圧用プローブが必要であり、測定したエネルギー値はオシロスコープからデータを抽出し、PC等で計算する必要性がある。そこで本研究では、除細動器・AEDの機器管理に注目し、本学実習で使用するエネルギー値と波形表示可能な小型除細動チェッカの開発を目的とした。
チェッカ本体のダウンサイジングのため、小さいサイズの負荷抵抗を選択するとともに、ロータリースイッチの使用により、負荷抵抗値を25Ωから200Ωまで25Ω刻みで測定を可能とした。波形表示とエネルギー値を計算するため、小型で軽量のARMベースのボードコンピュータRaspberry Piを使用した。
電気メス放電時における電界強度および音響解析による電磁波障害への検討
電気メスは、放電時に患者を通して本体へ戻る高周波電流経路の他、高周波(約500kHz、以下放電電磁波)が周囲空間に放射されており、手術室内のME機器に影響を与えることが問題となっている。先行研究により、放射電磁波の電界強度はメス先からの距離により弱くなること、また放電時メス先でモニタした音の違いにより、メス先を放す瞬間(以後、不安定接触状態)で電界強度が最も高くなることも報告されている。そこで、本研究では術中環境下を模擬し、手術台周辺に配置されたME機器の位置で、不安定接触状態時での電磁波障害を定量的に測定するシステムの構築・解析を目的とした。
付属病院手術室にて電気メスを動作させ、電磁界可視化測定システムを用いて模擬配置されたシリンジポンプと麻酔器(手術台頭側から60cm、95cm)の位置で電界強度を測定した。同時に、メス先の不安定状態をモニタするため、高性能マイクと音響振動ポータブルレコーダを用いて音響信号(切開位置から15cm)を測定した。電気メスの切開対象物として、生体ファントム(寒天ゲル、0.3%NaCl)を作成し、凝固モード、出力40Wで測定した。
体外式ペースメーカにおける出力データのデジタル的記録・保存システムの構築
臨床工学技士の業務の1つとして、ペースメーカ(以下PM)及びプログラマの保守点検とその記録が臨床工学業務指針2010により定められている。現在ではデータ管理のデジタル化が進んでいるが、紙媒体で管理しているところも少なくない。手作業での記入はミスも多く、臨床で必要とされる出力波形や数値をリアルタイム表示することができない。
本研究では、手術室や心臓カテーテル検査室で使用されている体外式PMを用いて、出力波形とペーシングレートをリアルタイムで表示し、波形データを保存・管理するシステム構築を目的とし、測定データよりシステムの有用性を検討した。
体外式DDD PMを使用し、その出力をAD変換器からPCへデジタル入力した。波形取込み記録・保存するためのプログラムを作成し、出力波形の表示、パルス幅の計測、ペーシングレートを算出した。
NPPVにおけるリーク測定システムの開発
NPPV(非侵襲的陽圧換気)療法は、気管切開を行わずマスクを用いて呼吸を補助する人工呼吸療法である。非侵襲的であるため、人工呼吸器関連肺炎など合併症を回避することができる。また、急性呼吸不全から慢性呼吸不全まで適応がますます拡大しており、NPPV療法を受ける患者数は年々増加している。NPPV療法では、リークを許容する開放式回路を用いているが、過剰なリークにより粘膜の乾燥・圧力低下が生じる。一方、強すぎるマスク固定は皮膚損傷や不快感の原因となる。NPPV専用機の機能としてリーク量は表示されるが、予測値であり実測値ではない。
本研究では、人工呼吸器の流量測定方法の1つである差圧式流量測定に着目し、リーク測定システムの開発を目的とした。差圧センサ、フローセンサを用いて簡易的な差圧流量計を2つ製作した。顔模型とテスト肺を用いて人体の呼吸器系を模擬し、マスク装着下でフローセンサを口元側とテスト肺側に取り付けた。NPPV専用機を使用し、2カ所の吸気流量差から実際のリーク量を求めた。差圧式流量計からの出力電圧波形は、AD変換器を通じてPCへ入力し、換気量を算出するプログラムを製作した。
NPPV用マスク装着時の皮膚接触面に発生する圧力測定の基礎的検討
人工呼吸療法では、気管挿管、気管切開、マスク装着の3種類が用いられている。NPPV(非侵襲的陽圧換気)療法は、マスク装着で呼吸補助を行う人工呼吸療法であり、適応疾患にはCOPDや心原性肺水腫等がある。マスクは弾性のあるストラップで頭部に固定されるが、マスクの圧迫により患者不快感や皮膚障害を生じることがある。マスク装着後、隙間からリークが生じると、ストラップをきつく締め直すことが繰り返し行われている。しかしながら、適正なマスク装着方法を定量的に表しているものはない。
本研究では、マスク装着時に発生する力に注目し、マスクと皮膚の間に生じる力を測定することで、リークと皮膚の影響を考慮した装着方法を定量的に評価することを目的とした。我々は、センサを用いて、マスク装着時皮膚に生じる力の測定を試みた。測定条件として、実際のマスク装着時に加わる力のみを測定するために、顔模型とフルフェイスマスク間にセンサを挟むことで測定を行った。測定には分解能と最大測定許容値が異なる2種類のセンサを用いた。次に、NPPV専用機をマスクと接続し換気状態での測定を行い、比較検討を行った。
簡易的かつ院内使用可能なパルスオキシメータプローブチェッカーの開発
パルスオキシメータは、指先や耳朶に付けたプローブで簡易的に動脈血酸素飽和度を測定できるため、術中麻酔管理やICUでの患者モニタに頻用されている。現在、パルスオキシメータの本体機能を点検するチェッカは複数存在するが、プローブ性能を点検できるチェッカはない。そこで、本研究では院内にてプローブ性能評価を可能とする簡易プローブチェッカの作製を目的とした。
先行研究では、簡易プローブチェッカの構成としてオペアンプ駆動電源、2波長LED、フォトダイオード(以下PD)、及び直流安定化電源を用いていた。そこで本研究では、ACアダプタ(DC24Vに変換)、ローノイズ正負反転DC-DCコンバータモジュール(オペアンプ駆動電源)、3端子レギュレータ(LED発光用、電圧表示モジュール用バイアス)等の電源供給基板を作製した。また先行研究では、パルスオキシメータ本体と接続したプローブへ発振される2波長LED光量及び、擬似指内のPDで受光した信号はオシロスコープで測定していた。そこでオシロスコープを小型2.42インチディスプレイ型モジュールに変更し、チェッカに組み込むことで簡易測定チェッカのみで測定できる仕様とした。